アート・ミックス・ジャパンの総合プロデューサー・能登剛史に聞く、日本の伝統と新潟の未来


今年で第6回目を迎える「アート・ミックス・ジャパン(以下AMJ)」。仕掛け人の能登剛史さんに、このイベントにかける想いを聞いてみた。

– 「アート・ミックス・ジャパン(以下AMJ)」を立ち上げたキッカケを教えてください。

2001年に立ち上げた「にいがた総おどり」が関連していて、その活動を通して様々な地域のお祭りと接する機会があったんです。そこで、篠笛(しのぶえ)とか太鼓といった伝統芸能に携わる方々とお話をさせていただき、それぞれの伝統芸能が持つ魅力が、後継者不足でどんどん途絶えていくという現実を知りました。

それと、2004年に「新潟下駄総踊り」というイベントを開催したのですが、それを機に新潟の踊りの歴史を紐解いていくと、3日3晩踊り明かした盆踊りが行われていたり、「樽砧(たるきぬた)」という木樽を使った楽器の継承者が一人しかいない現実に直面し、「これはなんとかしなきゃいけないな」と思いました。そういった文化を残していくには、やっぱり若い人たちが楽しみながら魅力的に感じられる場を作るべきだなと、なんとなくずっと考えていましたね。

そんな時に開催されたのが「ラ・フォル・ジュルネ新潟」。1公演45分、手軽な料金でクラシック音楽を聴くことができ、海外の文化をわかりやすく知る良い機会でした。それにならって、日本の文化をわかりやすく知っていただく機会をと思ったのが立ち上げのキッカケです。

– 新潟を拠点にしているのは、地元を盛り上げたいという想いもあるからですか?

そうですね。私の生まれは秋田ですが、小学生の頃から新潟に住んでいるので、この場所で全国・世界から人を呼べるイベントを確立する方が、やりがいもあるんじゃないかと。確かに東京でやれば影響力はさらにあるのかもしれませんが、それは他の人も考えることですから。

やっぱり地域の魅力というものは、そこに生きている人たちの生き方や考え方ですよね。人がいれば色々な可能性が生まれますし、そういう意味では、「世界中から人が集まれる機会を新潟で作り続けている人たちがいる」ということが、素晴らしいことなんじゃないかなと思います。

– 海外からも日本の伝統芸能は注目されていますよね。

メキシコでは国内のAMJと少し内容を変えて、日本のアニメ・ゲーム・小物などのカルチャーコンテンツも取り入れて開催したのですが、出店ブースには現地の人が集中して人気の高さを実感しました。我々が思っている以上に、日本の文化に憧れている方々は多いと思いますよ。

ただ、ネット環境が日本ほど整っていませんので、情報を上手く選んで見つけ出すことが難しいんです。そんな状況下でも、ほぼ日本語だらけの情報を理解して取り入れているということは、それだけ熱狂的というか、熱心ですよね。2日間で総来場者数が約5万人だったんですけど、これは想定していた人数の2倍でした。

– 昨年は開催5周年という節目もあって、23日間のロングラン公演でしたが、いかがでしたか?

それまでに出演していただいた方々を総動員した、AMJのベスト版とも言える内容でした。2020年のオリンピックが開催される時期までに、ぜひロングラン公演をさせたいなと思っていたので実現することができて良かったのですが、それと同時に課題も多く見つかりましたね。平日のプログラムををいかに面白くして人を呼ぶか、スタッフと相談してリベンジしたいと思っています。

– アジアの伝統文化を体感できる「AMJ+」という新企画もありましたね。

ゆくゆくは、「AMJ THE WORLD」みたいなものをやりたいんですよね。文化は世界中どこにでもありますけど、お互いの文化が違うということを認識し合うことによって、協調や調和ができると思っていて。

そして、文化によって世界が1つになるキッカケとなる大祭典を、新潟で実現できたら素晴らしいじゃないですか。そういう経緯があって、まずは足掛かりとしてインドネシア・中国・マレーシア・フィリピンの4カ国の伝統文化を紹介するAMJ+を企画しました。他国の文化を知るだけで、そこに住む人たちのことが身近に感じられるようになります。文化にはそういった言葉にない力がありますよね。

– もともと世界の文化にも興味があったんですか?

そんなことはなく、たまたまなんですけど、文化って「芸術」なんです。日本の太鼓も樽砧も獅子舞も、日本では「伝統芸能」ですが、ヨーロッパに行くと「これはアートだ!」って言っていただけるんです。蝶ネクタイをしてルーブル美術館で観覧するものみたいな。それくらい外国の人たちが持っている文化に対する認識の違いを考えると、日本人は文化の価値をあまり理解していないと感じますよね。

– そういった想いがあっての第6回目が始まるわけですね。

そうですね。また5年くらい2日間開催が続く予定ですけど、2日間開催の醍醐味は、ハシゴしながら観て回れるというところにあります。例えば、狂言を観て、神楽舞を観て、和太鼓も観れてしまう。プログラムは繋がりがあるように組まれているので、それぞれが持つ関係性みたいなものを、何となくでも皆さんに感じ取っていただけたら面白いと思います。

通常のように1〜2時間の長い演目だと気軽ではないので、「観に行こう!」とはならないですよね。それではフックが弱いですし、身構えてしまうと思うんです。そうではなく、「45分だからちょっと観てみよう」とか、「1,000円や2,000円だから」というような、観る側のハードルを少しでも下げて提供したいです。

– このようなシステムを出演者に伝えた時のリアクションはいかがでしたか?

非常に好評でした。全ての演者さんが共通して感じていることが「観客の高齢化」「ファン層の希薄化」なんですね。それをなんとかするために、例えば歌舞伎界ではアニメとコラボして、新しいことにチャレンジしようとしているわけです。そういった点で、このAMJは広く新しいファン層を作り出していきますから、「まさにこういうのを待ってたんだ!」と言っていただける機会になっています。

もちろんAMJをキッカケにファンがついて、個別に新潟公演を実施しているアーティストさんもいらっしゃいます。AMJ開催期間以外にも、様々な文化コンテンツが新潟で開催されるようになっていけば、良い循環が生まれますよね。

– お客さんからのリアクションもありますか?

毎回アンケートを実施していますので、良いものから悪いものまで沢山あります。来場者数も第1回目が約400人でしたが、前回までで約1万2,000人に増えました。これは潜在的に「伝統芸能に触れたい」と感じている人が増えている結果だと思います。

具体的にいただいた感想の中に、こんなエピソードもあります。8歳くらいの娘さんを連れて落語を観に来たお母さんからなんですけど、「娘に落語を観せて以来、新潟で落語の公演があると『お母さん連れてって』と言われます。また、娘の誕生日プレゼントで欲しいものを聞いたら、『落語のテープが欲しい』と言われたので落語のテープをプレゼントしました。そしたら毎日のようにそのテープを聴き、毎回同じオチのところで娘が笑うんです。その光景を見ていると、親としては本当に毎日が幸せです。ありがとうございました。」と。

このように、年齢に関係なく新しいファンが1人つくだけでも、演者さんにとっては続ける励みになりますし、文化が継承されていくことや革新的な新しいものが生み出されることにも繋がるはずです。ということは、「伝統文化を観ること」は「新しいアートを生み出す機会」とも言えますよね。

– 今回のテーマは「笑いと喜び」だと聞きました。

はい。大々的には発表していませんが、アーティストの選定にも裏テーマがないと筋が通りませんので、そのように決めさせていただきました。

今回は落語・狂言・神楽舞などが多くなっているのですが、伝統芸術が生まれた時代は自然災害や飢饉との戦いでもあり、同時に今よりも自由な生活ができる現代とは違う環境下にありました。

「ハレとケ」ってよく言いますけど、「大変な日常だけど、この日だけは明るく行こうよ!」っていう場面で新しい文化も作られてきたんです。いかに大変なことを喜ぶか。辛いことで歯をくいしばるか。そういったところの転換をしながら、当時の日本人は生きてきたんですね。そして、それらを笑い話に変えたネタが、落語や狂言の中でも一番人気だったりする。だから「笑い」とか「喜び」の裏には「苦しみ」などがあって、感情を転化するエネルギーが日本文化の中には色濃く残されているんです。能なども、非常に悲しいお話をとても華やかに披露してくれますよ。

– 今回のオススメを挙げるとしたら誰ですか?

全国で5本の指に入る五街道雲助師匠の落語ですね。これは滅多に聴けません。それと、結城座さんの江戸糸あやつり人形。まるで生きているかのように人形たちが動くので面白いと思います。新潟の方でいうと、2月に7代目七十郎を襲名されたばかりの、市川七十世(なそよ)さんの日本舞踊。自分たちの地域のことを知る上でも、ぜひ観ていただきたいです。その他は、石見神楽と三条神楽を合わせて観ていただくのもオススメです。同じ系統の神楽舞ですが、その違いを楽しんでいただければと思います。

– AMJの今後の構想を教えてください。

まずは、オリンピック開催が間近なので、世界中の人たちが注目したり、集まってきた時に、新潟から世界へ何が発信できるのかチャレンジしたいと思っています。新潟を拠点とし続けることで、次の世代の人たちにも、「実現できるんだ!」「チャレンジできるんだ!」と思っていただけるキッカケになりますから。

我々はAMJ以外にも「にいがた総おどり」と「食の陣」を運営していますが、新潟を拠点にしながら世界中から人を集められるコンテンツになれば、新潟の未来はさらに創造的な街になっていくんじゃないかなと思います。

PROFILE

能登剛史
1973年生まれ。秋田県能代市出身。小学校時代に新潟へ移住し、高校時代に初渡米。現地の同世代の個性きらめくさまに触発され、18歳でニューヨークへ留学。帰国後、会社勤めの傍ら地域づくりや環境問題など、様々なボランティア活動を経験。以来、日本の伝統文化や伝統芸能と向き合い、その魅力を国内外へ発信し続けている。

2001年 「新潟総踊り祭」を立ち上げ。
2002年 「新潟総踊り祭実行委員会」を設立し副会長に就任。
2004年 「新潟下駄総踊り」を立ち上げ。
2005年 「株式会社サイト」を設立し代表取締役社長に就任。
2011年 「にいがた総おどりフランス事務所」を設立。
2012年 「第6回安吾賞・新潟市特別賞」受賞。
2013年 「アート・ミックス・ジャパン」を立ち上げ総合プロデューサーに就任。
2015年 「食の陣実行委員会」実行委員長に就任。

INFO

アート・ミックス・ジャパン
日程 : 2018年4月14日(土)・15日(日)
場所 : りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館/燕喜館/新潟駅南口広場 他
料金 : 1公演 1,100円〜(無料公演もあり)
: http://artmixjapan.com

投稿者プロフィール

廣瀬
廣瀬
SHIKAMOのレポーター&ライター。1989年生まれ。五泉市出身。好きな言葉は「普通」。